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たいせつでたいせつで(181)

 街はすっかり夜の帳に覆われている。
 (あれから12分…)
 「!」
 まだかまだかと携帯の時刻表示を睨みつけていたクオンは、着信ランプの点滅を見るや鳴り出す前に通話ボタンを押した。
 「はい!」
 勢い込む声に一瞬怯む気配がして、すぐに父の声が流れ出す。
 「いいか?」
 「どうぞ」
 短い確認に短く頷けば、クーは何かを読み上げる平坦な調子でひとつの住所を告げた。
 「アパートの外観まではわからないが、記録によればキョーコたちが住んでいたのは3階の五号室だそうだ」
 近くに大きな病院があるそうだと付け加えられ、クオンにも大まかな位置が掴める。
 「わかった、ありがとう」
 聞き終えるや通話を切ろうとするが、イグニションキーに手をかける彼の耳に慌てたような声が入る。
 「我々もすぐに向かう。無茶をするなよ!?」
 「わかってるよ、父さん」
 語尾にエンジンの始動音がかぶさった。向こうにも聞こえているだろう。
 少年は今度こそ電話を切って携帯電話を放り出す。
 ハンドルをぎゅっと握りしめ、まっすぐ前に向き直った。通りを行く車のヘッドライトが金の髪を舐めては流れ、蒼い瞳に残光を閃かせる。
 「キョーコちゃんが危なくない限りはね」
 呟きを落とすと同時に、アクセルを踏み込んだ。




 「退治、するんだ…俺の人生をめちゃくちゃにした、悪魔を…」
 ぶつぶつと繰り返される呟きを、キョーコは切りつけられるような思いで聞く。
 怖い。
 携帯電話は車に乗せられてすぐに取り上げられて壊され、腰の横には銃口が擬せられている。絶望の打ち寄せる暗い海へと引き込まれそうになるのを堪え、彼女は必死に身を縮こまらせていた。
 もし、直前にクオンの姿を見ていなかったら、とうに負けていたかもしれない。あの光り輝くような少年が名を呼んでくれたから、手を伸ばしてくれたから。いつだってそうしてくれるから。だから、まだ踏ん張っていられる。自分を、信じていられる。
 そもそも、この夕刻に奏江と共に嘗て通っていた中学へ向かったのも彼のためだった。
 最近やたらと多忙になったクオンとは擦れ違うことが多く、今までは通学のために送り迎えをしてくれることが多かったのも時間が合わずほとんどなくなってしまった。
 そうなれば広い高校でコースの違う彼と自分はろくに顔を合わせることもなく、代わって今までも十分に衆目を集めていた彼が地味な日本人少女でなくもっと華やかな人々に取り囲まれている姿を時折遠目に見ることが精々といった有様となっている。
 それが、とても寂しい…
 と感じて、キョーコは混乱した。
 元より、宝玉のように美しい彼は自分のものではない。昔日本で知り合い、少し関わっただけの自分にとてもよくしてくれる優しい人だ。なのに、こんな風に彼の存在を常に求めるなどとは、忙しくしている彼に独占欲のようなものを抱くなどとは自分は図々しすぎるのではないか。
 考えれば考えるほど身の丈に合わない気がして来る。
 そんな風にしょげていると、親友たる奏江に日本から帰って以来様子がおかしいと言われた。日本で何かあったのかと詰め寄る奏江は、多少話したことのある幼馴染ショータローに関わることかと疑っている様子だった。そこでキョーコはショータローに対してこんな気持ちを持ったことがあっただろうかとふと思い返し、いやなかったとますます混乱したものだ。
 感情が錯綜して行く。クオンに会いたい気も、なぜか会いたくない気もした。
 するうち奏江が、そう言えばと彼女の中学でのクラスメイトが最近のクオンの映像をまとめたビデオを作っていたことを思い出す。この大人びた少女は普段そんなお節介を焼くような人物ではないけれど、よほどにキョーコの様子が気がかりに思えたのか、それを見せてもらえるように頼んでやると言い出した。
 ちなみにいつぞやキョーコを囲んだクオンフリークのうちの一人だったが連絡を取り、では中学で落ち合って、という話になった結果が現況、ということになる。
 それにしても、なぜいきなり義父が現れたのかと聡明な少女は恐怖の隅で考える。
 事件直後の記憶に欠けのあるキョーコだが、彼が自分の母を殺したことは認識しているし、逮捕されたことも聞かされた。その後の動向は知らないけれど、殺人を犯しておいて一年余で釈放されるはずがない。
 キョーコはラウズの纏う単色のジャンプスーツを盗み見た。この国の囚人は、あんな服を着せられている…
 脱走、の二文字が脳裏に浮かぶ。
 何のために、と考える勇気は出なかった。むしろ、先ほどからその答えを突きつけられている。義父が呪うような一本調子で低く吐き零している言葉は明らかにその答えで、
 そして、彼の言う悪魔とは。
 折しも、暗いながらも見覚えのある街並みが窓の外に流れて行く。心を過去へ引き戻そうとする力が刻々と強くなっていくのを感じて、キョーコは膝の上で強く拳を握り込んだ。
 (クオン…)
 あの眩しい面影を求めて目を瞑った時、がくんと体が揺れた。
 車が停まった、と思う間もなく腕を掴まれる。
 「降りろ」
 言う割に自分で移動することを許されずに外へ引きずり出され、よろめいた少女は踏みとどまれずにアスファルトに手をつけた。
 「相変わらず手間のかかるガキだな!」
 荒々しい舌打ちを浴びせられ、髪を掴まれる。そのまま引っ張り上げられ、思わず悲鳴を上げた。
 「痛っ…」
 「黙れ」
 鋭い声と同時に今度は髪を横に引き下ろされ、痛みに涙が浮く。
 「ほら、行くぞ」
 ラウズの声に、ねっとりとした喜色が混じった。
 「なつかしの我が家へ、なあ」
 ぼやける視界を覆う灰色の建物。それを見た途端、心の光がはじけ散る心地が、した。




 
 


 
 そう言えば。
 たぶんクオンは「今」だとスマホを使ってるような気がしますが、自分が使ったことがなくてどう描写すればいいのかわからないのでふつーの携帯電話になってます。まあ年代設定を明確にしてないので、きっと過去の時代が舞台なんだと思っておいてやって下さい~。


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