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たいせつでたいせつで(187)

 小さな手が視界に大写しになる。
 身長差のせいで彼の顔に届いていないそれに、クオンは釣り込まれるように身を屈めた。
 「泣かないで…」
 頬に冷たくて硬い感触が当たる。コーンの石だ。彼が彼女に、涙を吸い取る魔法の石だと言って渡した。
 少女と目を合わせた。少し揺れる、それでもちゃんと意思を持った瞳に出合う。
 「俺は、泣いて、ないよ?」
 あんまり安心して泣きたくなってはいるけど。
 微笑もうとして失敗した。
 未成年ではあるが本職の演技者のくせに、キョーコの方がよほど上手に微笑を作っている。彼女こそ泣きたいだろうに、泣いていいのに。こんな馬鹿な。
 愛されないことを嘆き、そこに留まらず愛されようと努力する手で。
 捧げる強さで人を想い、他者のためにふるえる心で。
 彼女はこんなにもやさしい。
 馬鹿馬鹿しい、とクオンは自嘲した。
 救済してはいけないのだと思っていたのだ。
 与えるだけではキョーコを駄目にする、だと?自分は彼女の何を見ていたのだ。そもそもが、与えられるだけに甘んじてくれないから自分は苦労も苦悩もして来たのではなかったか。
 そんな肝心な事実を忘れ、傲慢にも一方的な庇護関係が成立し得ると考えていたとはお笑い種だ。
 苦笑にすら失敗する。
 大切にしているつもりだった。
 何のことはない、大切にされている。結局、自分こそが押し付けるばかりで、与えることは彼女が教えてくれているではないか。
 馬鹿だ、ともう一度呟く。自分の傲慢さが、無知が、じわじわと恥ずかしい。そして、ひどくもどかしい。
 へたり込んでしまいたい気持ちをどうにか抑え、浮いたままの自分の手を見下ろす。
 見比べるように目を戻すと、キョーコはきょときょとと周囲を見回している。ラウズに気づくとはっと身を硬くし、それから男が伸びていることに気づいてもの問いたげにクオンを見上げて来た。
 大丈夫、と告げるのは簡単だ。
 しかしその言葉は、言葉という形ではないにしても彼の方が彼女に貰ってしまったばかりだ。同じくらいに確かなものを返すにはどうしたらいい。
 手に、動けと命じる。
 身長に見合って伸びた腕は心を包むにはいまだ足りないとわかっているけれど、小柄な少女の体をは難なく収めることができた。きっと、与え与えられる体温には意味があるはずだ。
 「クオン…?」
 キョーコの声はふわふわと頼りない。まだ、覚醒しきってはいないのかもしれない。
 クオンはゆっくりと黒い髪を撫でる。
 「俺には、もう十分だから。君は、君自身のために泣いて。ここで」
 くらい、夜のコンクリート地に蹲って冷えてしまった体と自分との間に、じわりと伝わる熱を感じた。生きる力を分け合っている、と思う。
 階段を上ってくる足音が聞こえる。彼自身がぶち開けたまま微風に軋む鉄扉の向こうを、さっと影がかすめる。
 警察の人が着いたみたいだね。
 言おうとしたクオンは、蒼白な顔を強張らせている少女を見た。
 「!」
 疑問より先にその視線を辿った。振り返る視界の端、低い位置にちかりと不吉な光が閃く。
 銃口だ。
 立ち上がれず這いつくばったままのラウズが伸ばす片手には、いつの間にかチーフスペシャルが戻っていた。弾丸よりも禍々しい、血色の眼光に射つけられて息を呑む。引き鉄にかけられた指が震え、力がこめられたことを知る。
 しまった。
 思うと同時に少年は少女の体をぐいと引いて体勢を変えた。腕の中の宝物を、火を噴く悪意に渡すわけには行かなかった。
 轟音が夜気を引き裂く。



 
 


 
 やっとこさ次回で終わる…かも?


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